ユニークな科学研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」の今年の栄養学賞は明治大の宮下芳明教授と東大大学院の中村裕美准教授で、電流を流した箸やストローが食べ物の味をどのように変化させうるかという内容でした。
舌の味蕾や神経に電気を伝えると食材のNa+イオンが舌表面に集積され、塩味を感じる電気味覚という現象がおこります。そこで食物には微弱な電流を通した箸を使い、飲み物には電通させた2本のストローを用いて塩味を増幅させることを考案し、商品化までされているそうです。イグノーベル賞では他にも、牛の糞からバニラの香り(バニリン)の発見や、山葵のにおいを応用した火災報知器など、嗅覚・味覚が受賞に寄与しています。ユニークな研究材料として認知されているからでしょう。
さてこれを利用した味覚検査、その名も「電気味覚検査」はすでに40年以上も前から存在しており、当院でも18年前から延べ350名に施行しています。検者は直径5mmのステンレス製の円形平板電極を被検者の舌に接して微量電気を流し、被検者は金属味を感じたら応答ボタンを押します(写真)。刺激強度をdb単位で表し、4μAの-6dbから400μAの34dbまで設定されており、日本人の平均域値は8μAなのでこれを0dbと基準化します。8db(20μA)以下を正常値とみなし、左右差は6db以内です。作用メカニズムですが舌表面の唾液や組織液が通電で電気分解され、陽極刺激ではその電解産物であるOH−イオンなど陰イオンは電極に引き付けられ、その直下の味蕾にはH+イオンなど陽イオンが集積して刺激されるため酸味(金属味)を生じる電解産物説と、電流が味蕾内の味細胞や味神経を直接刺激する電気直接作用説とがあるそうです。測定時間は15分ほどと簡便ですが全国的に耳鼻咽喉科クリニックで実施しているところはほとんどありません。臨床的には味覚障害(コロナ後遺症含む)の他、舌痛症の診断にもなります。詳細は本稿2016年12-1月号をご参照ください。
歯科領域でも同様の現象があり、歯科治療では銀歯を始め、様々な種類の金属が使用されていますが、異なった種類の金属が口腔内にあると、唾液が電解質となって電位差が発生し、電流が生じることがあるそうです(ガルバニー電流)。
私の大好きな関西ローカル番組の「探偵ナイトスクープ」で、湯船につかりながら鍋でサッポロ一番の塩ラーメンを食べると酸っぱく感じるというネタを数年前に放映していました。
このケースは鍋が微量ながら金属イオンとしてお湯に溶ける→ラーメン→舌→人体→風呂のお湯→鍋の電気回路が形成されるからで、早速、鉄鍋とフォークを使って試してみました。が、はっきりとした変化は感じられませんでした・・。ちなみに私と同様にチャレンジしているYoutubeは多数あります。