日本アロマセラピー学会九州地方会で「新型コロナウイルスと嗅覚障害、アロマセラピー」の演題でオンライン口演しました。
この2年余りすっかり定番化したWEB講演会ですが、従来の対面形式と比較すると話し手の一方通行ばかりで会場の一体感に欠けると通常感じていたため、何か聴講者が参加できる様式はないかと思案しました。そこで私が今までのオンサイト口演で必ず施行していたスティック型嗅覚検査を敢えてオンラインでも実施しようと考え、さすがに一人では無理だろうと当院の電カルサポート会社のアイテップ゚社にこの企画を説明しご協力願いました。
この検査は全12問ですが、発表時間の関係上、設問は3つのみとし、塗布してから(スティック型嗅覚検査はスティック型の容器に充填してあるマイクロカプセル香料を濾紙に塗布して嗅覚検査用紙を手作りする)2週間経過しても匂いがほとんど変わらないみかん、炒めたにんにく、香水を選びました。最初の2問は実際の検査方法と同様、四者択一法としましたが、最後の問題(香水)は各自が感じたままを自由に表現する官能表現を、チャット機能を利用して私の発表時間内に返答してもらうことにしました。サプライズ企画なので本番まで参加者にはシークレットです。
しかしこの嗅覚検査用紙を参加申込者全員に郵送する段階で問題が発生しました。
学会日は5月8日のためGW中の配達事情により当院(鹿児島)から4月末には送らないと普通郵便では全国には期日内には届かないとのことです。しかし折角早く送っても学会までに匂いが“飛んでしまう”可能性があるのでかなり早い時期に配達する訳にもいきません。そこで参加申込の大半の約40名は5月2日に速達郵便とし、3連休中も数名分のために郵便局に通い、最後の1名は5月6日に投函しました。ちなみに鵠沼(くげぬま)、匝瑳市(そうさ)、ハ(は:千葉県旭市にある町名)など判読困難な地名には苦労しました。
当日までにアイテップ社には打ち合わせで4回通い学会事務局を交えてのシミュレーションは3回行いましたが、その際不具合が生じた鼻洗浄の動画は中止にしました。とにかく本番までに嗅覚検査用紙が参加者の手元に届いているか、そして当日無事匂いがするのかということだけが心配でした。
当日を迎えました。私は3番目で大トリなのですが開始直後より学会事務局、演者、参加者との間で画面・音声提供の不具合が起きてしまいました。
さていよいよ私の番です。接続の方は大丈夫のようです。
15:00パワポによる口演開始。15:15嗅覚検査施行と同時に3問目はチャットで返答をと参加者に呼びかけ。15:45チャット受付終了、同時にチャットでのにおい返答についてのコメント。15:50質疑応答。16:00終了です。
その間に嗅粘膜解剖とにおい受容、2年前の全国的な耳鼻科ネブライザー&内視鏡によるコロナ感染拡大疑義、コロナ関連商品の有害事象例、コロナによる嗅覚障害の特徴である異嗅症・自己臭症、コロナ後遺症に対する上咽頭擦過療法・嗅覚リハビリテーション法について発表しました。
チャットへの呼びかけと同時に早くも15:19には2名から返答を頂きました。それを皮切りに続々と返信があり結局15:36までの間に延べ22名もの方々からレスポンスがありました。
スライド発表しながら随時チャットのPC画面に目をやると集中力が散漫になることは予行演習で実感していたので、本番ではスタッフが一覧をプリントアウトして発表終了間際に初めて目を通すことにしました。スライド残り2〜3枚の時点で話しながらチャットの記載内容を頭に入れるというのはなかなか厳しい作業でしたが、最後に何とか10名ほどのにおい回答について読み上げ、それについての私の感想をほとんどアドリブでコメントしました。
最も優越な回答を「学会嗅力No1」とすると発表時に告知しており、No1いわゆる優勝は山村葉子様(大分県)「自身が使っているハンドクリームの香りに似ている。トップノートはジャスミンにも似た甘く官能的な香りがしたが、次にカモミール様の甘い香りで爽やかな気分と安堵感が広がる。最後には優しい感覚が広がった。」を選びました。選定理由はアロマセラピーの学術的語彙を踏まえた長文で、且つ時間内に3回も投稿がありその熱意を買ったためです。4〜5人くらいと思っていただけにこれだけの人数からチャットを頂き感激しました。なんとか無事に発表は終了しましたがこれほど神経をすり減らした発表は初めてでした。
発表を終えた今、時間をかけてチャット返答を改めて吟味すると思い浮かぶことが多々ありますので、この場で再評価させて頂きたいと思います。
面白いのは答えが「香水」なのに「おじさんのにおい」「加齢臭」と答えた方が3名もいて、10名近くいる「甘いにおい」「花のにおい」「フローラルな香り」などと全く対照的な答えになっているのは視覚、聴覚よりもより幅広い感受性である嗅覚ならではの特性と言えるでしょう。
評:
同日ご講演頂いた日本浮腫緩和療法協会の先生ですが、ご発表は細胞を金魚に例えるなど独創的な発案やスライドのグラフィックさに圧倒されました。薄い、弱いでなく“洗い流しが不足した”というフレーズが微妙な香りの強さを的確に表しています。
評:
表現はいたってシンプルですがベンゾインは当院の超音波ネブライザーで用いていた精油で個人的に思い入れが強いため選ばさせて頂きました。芳香成分はベンズアルデヒドで杏仁のにおいとして知られています。バニラエッセンスに似ていますが粘稠性が強く洗浄が難しいことよりネブライザー用ガラス器具を破棄せざるを得なく現在は使用していません(本稿2006年10-11月号参照)。
評:
これからの季節にぴったりの表現。“この香りは○○という場面に似合いそうです”といった香りの適材適所的な描写がウィットに富んでいます。
上記参照
においは光、音とは異なり回線で送ることができません。そのため今回は郵送というアナログ的労力を要しましたが逆に参加者と感情を共有することができ、有意義な時間を過ごせました。
また遠くは青森、宮城など遠方からご参加頂きました事もこの場を借りて重ねて御礼申し上げます。実際のところは答えを考えたり、PC操作したり、他の人のチャットを見たりで、皆さん後半はほとんど私の口演は聞いてなかったでしょうが・・(苦笑)。