夏に鹿児島県立博物館での企画展「くんくんかずんでん~におい図鑑~」を訪れました。かずむとは「香む」と書く鹿児島弁です。すなわち「くんくんにおいを嗅いでみよう」という意です。
会場は博物館の展示室一室のみですが、コの字型に所狭しと壁に説明用パネル、その前には試飲ならぬ試嗅用の標本が陳列していました。それを紹介・補足してみます。
臭いにおいのカメムシ(ヘコキムシ)と同じ香気成分のヘキセナールを持つことから、パクチーの和名はカメムシ草。ミイデラゴミムシは捕まえようとすると「プッ」と100℃近い刺激臭のガスを放ついわゆる屁っぴり虫。アゲハ(揚羽蝶の幼虫)は腐ったみかんのような臭角を持つ。ヤンバルトサカヤスデは徳之島で発見されて以来、平成15年には鹿児島市でも発見された。油っぽい臭いを出す。アマミサソリモドキは薩摩半島南部に生息し酸っぱい毒ガスを発することから「酢虫」と呼ばれる。奄美諸島に生息するアカマタ(マダラヘビ属)やアオダイショウは敵に襲われると肛門付近の臭腺より臭い液体を分泌し、同様の生態であるヨナグニシュウダ(ナミヘビ科)はそれがシュウダ(臭蛇)の語源となっている。
独特な香りの葉としてニッケイ(香気成分:オイゲノール)があり肉桂、ニッキ、シナモンなどの呼称があるが鹿児島では「けせん」といって団子を包む葉っぱとして使われる。ヘクソカズラ(アカネ科)は漢字で「屁糞葛」と書くほど葉や茎を傷つけると悪臭がするので、茶葉に混じると大変。カラクサカズラ(唐草葛)は乳牛が食べると牛乳に臭いにおいが混じってしまう。ショクダイオオコンニャクは腐った死体のような臭いで、死体に集まるシデムシ、糞に集まる糞虫に花粉を運んでもらう(忌避作用の逆)。
臭い食べ物としてはシュールストレミング(スエーデンのニシンの缶詰 香気成分:メルカプタン、硫化水素など)、臭豆腐(中国や台湾における豆腐の加工食品 香気成分:インドール 糞便の臭い)、エピキュアーチーズ(ニュージーランドの缶詰で発酵させたチーズ)、キビヤック(カナダのイヌイット民族やエスキモー民族が作る、海鳥をアザラシの腹部に詰めた漬物)、おなじみドリアン(香気成分:1,1-エタンジチオール)、ホンオフェ(韓国の発酵させたガンギエイで、尿素が加水分解されてアンモニア臭となる)、日本のくさや、鮒ずし(滋賀県のなれずし)などが挙げられる。
宇宙のにおいとしてはISS(国際宇宙ステーション)では空気の入れ替えができないので汗や埃の充満した臭いが漂っている。地球でにおいが嗅げるのは地球の引力で空気が引き付けられているからで、宇宙では引力がないためにおいを嗅ぐことはできない。
全国行脚の「におい展」(Sweet Smell 2020年2-3月号参照)よりも、今回の方が鹿児島に特化したローカルなにおいでオリジナリティに溢れていました。手作りされた博物館の学芸員の方々には頭の下がる思いです。臭いにおいを館外の中庭で嗅がせる試みも良かったです。
ちなみに上述した宇宙のにおいも鹿児島ローカルです。宇宙と鹿児島?と思う方へのヒントは「47都道県のうち他の都府県には一つもないのに、鹿児島には2つあるものは何?」です。
あと最近はアロマや若い女性向けの「いい香り」イベント、今回のような「臭いにおい」イベント、の二極化が進んでいると感じています。