Sweet Smell 10-11月号

学校検診に嗅力検査は不要なのでしょうか

今年も学校検診のシーズンがやってきました。コロナ元年の一昨年は学校、医療両サイドの懸念より時期をずらして9月に行いましたが、昨年から例年通り5〜6月に施行しています。鹿児島市で幼稚園1校、小学校5校、中学校1校、高校1校受け持っています。写真は鹿児島市の山下小学校です。PPE(Personal Prospective equipment:個人防護衣)に身をまとい、保健室の窓は全開して換気します。毎年後日、保健委員会の児童から手作り色紙(検診時のスナップ写真とお礼の寄せ書き)を頂くのは嬉しいものです。

さて私は就学時検診、学校検診、身体測定に視力検査、聴力検査があるのに嗅力検査がないことに不満です。そこで今年は簡易的な嗅覚検査にトライしました。

城南小学校では下鼻甲介蒼白・腫脹(アレルギー性鼻炎)や粘液性鼻汁・痂疲(副鼻腔炎)の所見がみられた児童4名にティートリー精油を嗅がせました。しかし“ティートリー”を知っているわけがないので、においがするかどうかだけの検知検査に留めました。次の名山小学校校ではペパーミント精油を嗅がせましたが、ほとんどの子がスースーするとの答えでした。確かにペパーミントの主な香気成分のメンソールは嗅覚というより知覚ですので、松原小学校ではカード式嗅覚検査(オープンエッセンスR:正解カレー)を準備しました。1〜2年生でカレーをパイナップルと答えた1名以外は10名足らずの全員がカレーと正答できました。次は(甲東)中学校なので四択では平易なので官能表現にしようと、紙コップに茶葉を持参して数名に目をつぶってもらい、答えてもらいました。1名だけ変なにおいと答えたものの、それ以外は全員お茶と答えることができました。ところが次の松元幼稚園でもなんとお茶を「抹茶」と答えた幼稚園児がいました。他の子はさすがに首をひねったり口ごもったりでした。カード式嗅覚検査(カレー)はコーヒーと答えた幼児が1名いただけで他は設問の四択(コーヒー、パイナップル、カレー、バター)を読み上げれば全員正解でした。松元小学校では設問四択を読み上げずに自分で黙読して答えてもらったところ2年生で正解できた児童がいました。先生いわくまだ低学年ではカタカナが読めない子もいるそうです。私の母校、鶴丸高校では数名茶葉の官能表現をしましたが、さすがに全員正解でした。

このように学校検診に嗅覚検査を組み入れてみた感想は、難点としてまず一つ目は言うまでもなく検診の流れが悪くなることです。二つ目はカタカナが読めない子に対して読み上げたり、答えてもらった後に正解を伝えたりしたら、後ろの子たちに聞こえてしまうことです。かといって全ての子にその都度問題を代えたり、声を出さずに回答の選択肢を指さしさせたりすると余計に時間がかかってしまいます。

工藤典代先生(千葉県立保健医療大学)は84例の小児に対して自覚症状の聞き取り調査をしたところ鼻汁、鼻閉塞については「(症状があるのか)わからない」と返答した児童はともに10%以下であったのに対して、嗅覚低下については72.6%もの児童が「わからない」と返答したと、また嗅覚低下があると返答した最年少は8歳7か月であったと述べています。すなわち小児は成人ほど正確に症状を訴えることができないのでいかに嗅覚障害をみつけだすかは至難の業ということになります。

藤尾久美先生(神戸大学)は50歳以下を対象にしたカード式嗅覚検査ではカレー、メンソール、みかん、が3つとも100%を呈しているため、一つでも間違えたら嗅覚障害とみなしていいのではないかと提言しています。しかしスクリーニングという意味合いを持たせるのならば全員を対象にしないと意味ないため各家庭に調査票を送って嗅覚が悪いと自覚している児童だけピックアップして嗅覚検査を施行するのも一案と思います。

この時、鼻がつまって匂いがしないのは当たり前なのであくまでも「鼻の通りはいいのに匂いを感じない」と限定するのが効率よく精査するポイントと思います。他には就学時検診に組み入れたり、授業で嗅覚の啓蒙をしたりすることがいいと思います。視力検査や聴力検査みたいにスコアを算出する精密検査という視点なら基準嗅力検査が該当しますが、そもそもこの検査はコスト高、臭気汚染などの他、養護の先生では技量的に難しいです。よって閾値検査、同定検査、識別検査をふまえて以下が私の考えるスクリーニングとしての嗅覚検査です。

  • 幼稚園:精油(なんでもよい)を嗅がせてにおいがするかどうか
  • 就学時検診〜小学校3年:カード式型嗅覚検査:カレー(絵を用いての四択設問)
  • 小学校4年以上〜高校:茶葉の官能表現
ちなみに全員に統一した方法でという主旨ならカード式嗅覚検査であれば1セット65000円で12種類(各々1回分)、50名分なので、1人1種類とすると1人ほぼ100円の経費ということでコスパはいいと思います。

ただ12種類の難易度が異なるので人数の差異も含めて割り振れば

  • 幼稚園 カレー みかん
  • 小学校 メンソール 家庭用ガス 薔薇 蒸れた靴下 練乳 炒めたニンニク 香水
  • 中学以上 墨汁 材木 ひのき
がいいと思います。

「今後の耳鼻咽喉科学校検診の在り方について」が日本耳鼻咽喉科学会よりアンケート調査がきましたので嗅覚検査を入れるべきとの趣旨で記入しました。一方、耳鼻咽喉科領域において最も重要視されている感覚の聴覚はというと、3歳児検診後の難聴に対する人工内耳の適応等の療育として行政、開業医、大学病院・市立病院の3者がタイアップしてフォローアップするなど嗅覚とは雲泥の差です。また最近は言語異常も取り沙汰されています。

寄稿余滴:今年は2年ぶりに某学校で保健委員会が対面式で開催されたのにも関わらず相変わらず内容は身体測定の結果やスマホの長時間使用に気を付けようなどのテーマで新型コロナにはほとんど触れられなかったのには落胆しました。私としてはこれまでの感染対策方法と実績、ワクチン実施状況、クラスターや陽性者をシークレットにする理由、これからのwithコロナとしての取り組み方などを直に聞きたかったのですが・・。

<参考文献>
「オープンエッセンスによる嗅覚加齢性変化のスクリーニング」
藤尾久美 日耳鼻121:38-43,2018
「小児鼻疾患の治療」
工藤典代 日耳鼻118:176-181,2015