このコラムも3回連続、新型コロナ関連です・・。
新型コロナウイルスが嗅覚障害をきたすメカニズムが少しずつ判ってきました。 臨床における所見上は上鼻甲介と鼻中隔との間の嗅裂部がウイルスによる炎症で閉鎖してしまうとのことですが、免疫生理学的には新型コロナウイルス(covid-19)のspikeが細胞膜表面上の受容体であるangiotensin-converting enzyme2(ACE2:アンギオテンシン変換酵素)に結合した後、同じく細胞膜表面にありウイルス侵入を補助するプロテアーゼ2種類transmembrane protease serine subtype2(TMPRSS2)の働きで、より結合が活性化されるとのことです。
ちなみに嗅球、嗅粘膜に発現を認めるのですが、嗅粘膜に関しては嗅上皮の支持細胞やボウマン腺にACE2が多く存在していることが報告されました。Functionalな嗅細胞ではないところが少し意外な気もします。 またturnoverするものの加齢により減少する嗅細胞に対して支持細胞は加齢でも数の減少は少ないためAGE-2が保持され、高齢者ほどcovid-19に罹患しやすくまた嗅覚障害もきたしやすいのではと思います。
コロナウイルスに対する最も必要な治療または予防は耳鼻咽喉科ではごく日常的に行われている「鼻洗浄」であるという仮説があります。その根拠はウイルスが上述のように上気道に存在するため洗い流すことで奏功するということ、上気道である鼻腔、咽頭でウイルスが増殖して重篤な呼吸器(下気道)症状を引き起こすため、上気道の治療がより重要であること、そしてウイルスは直接血液中に存在しているわけではなく鼻腔“粘膜”内に存在しているので血流を介する薬物(抗ウイルス剤等)には抵抗を示す可能性があるということなどです。鼻洗浄に用いるのは通常の生理食塩水にアズノール含嗽液やティートリー、ユーカリ、シナモンなどの精油を混ぜればより効果が期待できるのではという意見もあるそうですが目下、当院では生理食塩水のみです。
新型コロナによる嗅覚障害の臨床的特徴を私なりに記載したいところですが、いかんせん当院では発生ゼロなのでコメントできません。“嗅覚障害患者が来院したら診察せずにまずは経過観察を”との学会指針が今年春の時点で出されました。しかしながら実際に嗅覚障害の患者が来院すると問診などより問題なしと判断して院内で診察、嗅覚検査をするケースもあり、双方のジレンマに苛まれている日々です。
前回のこの欄で触れた台風で折れたざくろの木ですが、ご覧のようにばっさりと切り落とす羽目になりました。街中で樹齢50年は珍しいと南日本新聞にも掲載されたほどだったのに残念でした。
果実は見た目ほどにはフルーティな香りは意外としないのですが、香り成分は(Z)-3-ヘキセン-1-オールが主です。
<参考文献>
高見茂:AROMA RESEACH82:164-168(2020)
安部茂:AROMA RESEACH82:169-175(2020)
上羽瑠美:日本鼻科学会誌59(3):199(2020)