平成27年5月29日に口之永良部島が噴火したニュースは記憶に新しいところです。9年前に離島検診で訪れ、屋久島からのハードな海路移動、筍の美味しさを体験した私にとっては他人事ではなく、ひと時も早い完全帰島と穏和な生活の復活を願っています。
私、いや鹿児島県民にとって火山と言えば何と言っても桜島(写真)です。8月15日も噴火警報レベル4にて避難勧告が出され、ドカ灰(地元におけるかなりの灰の量の呼称)の時は4Km離れた鹿児島市内でも街中に硫黄のニオイがするほどです。しかし今回資料を調べていたところ、「噴火口や硫黄泉などが硫黄のニオイとされるが、硫黄自体は無臭であり、実際は硫化水素の臭いである」という一文が目に留まり驚きました。
硫化水素は化学構造式はH2Sですなわち硫黄が還元されて生成される、硫黄と水素の無機化合物です。無色で腐乱臭を持つのが特徴ですが、これが硫黄のにおいではなく、"硫化水素"のにおいという訳です。噴火口における火山性ガスは硫化水素や二酸化硫黄などが混在しており、腐った卵に似た特徴的な強い刺激臭で、これらの物質は悪臭防止法に基づく特定悪臭物質に制定されています。空気よりも重いため、火山地帯や温泉の吹き出し口などの窪地にたまりやすく、また下水・ごみ処理場や飲食店などの厨房排水にても硫黄が嫌気性細菌によって還元され硫化水素が発生します。糞、屁にも若干含まれるそうです。
悪評高い(?)硫化水素ですが、逆に私には思い入れがあります。当院主催の「匂いと香りのセミナー」は過去9年間で57回開催してきましたが、唯一"臭いにおい"のテーマとして8年前に取り上げたことがあるからです。この時は「悪臭と臭気判定士」というタイトルで、講義をお願いした鹿児島県環境技術協会の川原健司先生には実際の硫化水素を無臭袋にご持参頂き、臭いにおいを参加者全員で回し嗅ぎしました。
しかしながらこの悪臭も温泉地で嗅ぐと同じ臭気成分でありながら癒される気分に浸れるのは、不思議なものだとつくづく感じます。
今年7月日本耳鼻咽喉科医会 第40回臨床家フォーラム「かごしまフォーラム2015」で「認知症と嗅覚障害 アロマセラピー」にて講演発表しました。抜擢頂いた田上クリニック院長で日本耳鼻咽喉科医会理事長でもある伊東祐久先生には感謝致します。
恒例によって講演中にスティック型嗅覚検査を3つ試しました。官能表現としてトリュフ、ガーリックライス、ガソリン、ナフタリンなどの意見がフロアから出ましたが正解は「家庭用のガス」でした。講演中に検査を実施する意図は検査紹介や認知症のスクリーニング目的(さすがに冗談ですが)というのもありますが、実際に感じたにおいを生でコメントしてもらう事によって、嗅覚というものは個人的好みが激しいこと、また官能表現は意外と難しく頭を使う、よってこの嗅覚トレーニングは嗅覚障害の治療、また認知症の予防になりうるのではないかということを実感してもらうことが一番の目的です。
1時間の講演でのどがかなり乾いたのですが、途中で間が途切れるのが嫌なので、用意されたペットボトルの水を飲むのは遠慮しました。