Sweet Smell 06・07月号

先日、線虫を用いた尿検査でのがん検診が将来可能になるかもしれないというセンセーショナルな話題がマスコミを賑わせました。

線虫(C.elegans)とは土壌や水中に生息する体長1mmの透明な生物で、犬と同程度(人間の約3倍の200個の嗅覚遺伝子を持つ)の嗅覚を携えています。

九州大学大学院の広津崇亮先生、伊万里有田共立病院の園田英人先生らの研究によると、線虫は好きなにおいには誘引行動し、嫌いなにおいには忌避行動を取り、これらの走性行動をがん独特のにおいに利用して一滴の尿からがんであるか否かを高い確率で判別し得たとのことです。採血による腫瘍マーカーよりも早期発見が可能であり、更にノックアウト(遺伝子操作により1つ以上の遺伝子が欠損)線虫を用いれば一度に多くのがんの種類も特定できるそうです。

他には、線虫は簡単に増殖でき寿命も短く管理しやすい、検査は非侵襲的で苦痛がなく便潜血検査よりも容易である、尿検査の前の食事制限は不要、検査のためにわざわざ医療機関を受診する必要がない、1検体あたり数百円で検査可能なので実用化すれば医療削減に役立つなどのメリットが予想されています。

従来はがん探知犬が知られていましたが、犬は育てるのに時間がかかるだけでなく気温や湿度、体調によって精度にバラツキがでてくること、集中力の問題上、1日に5検体ほどしか調べられないことなどがネックだったそうです。今後の課題としては年間を通しての気象すなわち温度、湿度の環境的変化における普遍的な結果や、健康な人を対象とした大規模調査としての感度・特異度の測定などが挙げられ、早期発見と死亡率を下げることを見据えての実用化は10年後が予想されるそうです。

是非、耳鼻咽喉科での実用をと言いたいところですが、当科の代表的がんである喉頭がんなどは喉頭ファイバーでの粘膜所見で大方判断しうるので必要性は低いかもしれません。また動物実験と言えば兎を使った嗅粘膜、犬を使った喉頭粘膜の動物実験に苦労していた頃を懐かしく思い出しました。先日、広津先生に厚かましくもメールにて1点質問させて頂いたところ、丁寧にメールでお答え頂き、また奥様は鹿児島出身で、嗅覚の臨床も興味があるので身近に感じられるとの返信を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

日本耳鼻咽喉科学会が東京国際フォーラムで開催され、恒例の嗅覚飲み会は慈恵医大の幹事で、汐留シビックセンターで催されました。42階からの夜景の下で30名程参加され、小早川達先生(産業技術総合研究所)、藤尾久美先生(神戸大)、小河孝夫先生(滋賀医大)らと臨床検査、互いの嗅覚外来の現況などについて情報交換しました。最近は各大学の4〜5年目の若手の先生方の参加が増えて増々活気づいています。

宿泊したアンダーズホテルはスタイリッシュな内装で、フロントもカウンター台は設けていないなど簡素な印象でした。

翌日は今年6月に閉店になるマキシム・ド・パリにようやく訪れることができました。内装は(写真)ヨーロピアン調でエレガントな雰囲気でした。久しぶりに"どっしりとした"フォアグラのテリーヌを食することができ、30分も敢えて待ったオレンジスフレはクレープシュゼットに次ぐ美味しさのスイーツでした。