私は受験勉強、医学部講義としての化学は嫌いでした。しかし将来は自分の子供に教えるためにという義務感(?)より、におい分子・化学構造式も少しは勉強しています。においの種類と化学構造との関連性は以前から興味があり、化学構造式が異なれば、異なるにおいが生じるのは当然ですが、以下の2つが起こりうることに嗅覚の奥深さを感じています。
光学異性体について詳しく説明すると、鏡像の関係(キラル)にある2種類の分子は構成する原子も、結合の仕方も同じなので、沸点や融点などの物理化学的な性質は完全に同一ですが、一つのみ異なる点があり、それが"旋光性"と呼ばれるものです。光は波のように電場と磁場が振動しており、太陽光など自然の光の場合、電場や磁場の振動方向は360度あらゆる方向のものが混合されていますが、それに対して、ある特定の方向にのみ振動している光を「偏光」と呼びます。物質の中には偏光した光が透過すると偏光方向を回転させる性質を持つものがあり、この性質が"旋光性"です。鏡像の関係にある2つの分子は旋光の向きが逆となり、偏光方向を右(光に向かって時計回り)に回転させるものを右旋性、左(反時計回り)を左旋性と言います。右旋性をもつ物質をラテン語で「右」を意味するdextroの頭文字をとってd体、左旋性は左を意味するlevoよりl体と呼びます。
d体とl体とでニオイが異なる代表的なものにメントールがあります。メントールは分子内に3個の不斉炭素原子(光学活性体の中心の炭素原子)があり、2×2×2=8個の異性体(相対立体配置に基づく4個の異性体と、それぞれの鏡像異性体4個)が存在します。具体的にはd体はかび臭く、ホコリのニオイなのに対して、l体はおなじみの清涼感の香りです。他にはdカルボン体がキャラウエイ(姫茴香 セリ科)の香りに対して、lカルボン体はスペアミント(シソ科)の香りなどの例があります。
におい分子のみならず、におい"受容体"についても同様の見解があります。蛋白質はアミノ酸(中央の炭素を中心として各々に結合する4つの原子が異なるのでキラルとして存在)のみによって構成され光学活性です。よって蛋白質より形成されているにおい受容体自体もまた光学活性であり、このことも光学異性体同士で異なるニオイが生じるもう一つの理由になりうるそうです。しかしながら実際には光学異性体同士はにおいの区別が全くないか、においの質は同じで強さが異なるケースがほとんどで、上記に示したように明瞭に異なるケースは稀だそうです。
光学異性体は味覚でも存在し、旨み成分のグルタミン酸(昆布)において、L-グルタミン酸は旨みを感じるが、D-グルタミン酸には味は無いということなど、まだまだ興味は尽きません。大学受験生・医学生の頃にこれだけの好奇心を持ち合わせていたらと、今更ながら思うところです。
アロマサイエンスシリーズ21 (1)においの受容/渋谷達明・外池光雄編/フレグランスジャーナル社
アロマサイエンスシリーズ21 (6)におい物質の特性と分析・評価/川崎通昭編/フレグランスジャーナル社
興奮する匂い 食欲をそそる匂い/新村芳人/技術評論社
リレー・フォー・ライフ(RFL)に今回初めて参加してきました。
これは公益財団法人 日本対がん協会主催のがん患者、家族、一般市民が交流できる がん患者支援チャリティイベントで2006年より始まりました。全国的に年々拡大し、鹿児島では昨年から開催されており、今年は"リレーフォーライフかごしま つなげよう命のリレー"というサブタイトルのもと、鹿児島ウオーターフロントパークでの開催となりました。
日本アロマセラピー学会としては今年が初めての参加で、5月11日は13時〜17時、翌日は10時〜12時でアロマトリートメントのブース(名称:アロマタッチ)を出店しました。備品の調達などは学会本部にご協力頂き、準備、連絡、ブース運営などはほとんど、今回出店の発起人である川畑真希子看護師(メディカルアロマセラピーサロン レイライン代表)に任せっきりで、申し訳ない思いでした。私は医師帯同とは名ばかりのただの付き添い(見学?)でした。
中々の盛況で2日間で74人もの利用者があり、結果的に2ブース借りて良かったと思いました。イベントの目玉であるチャリティウオーク(24時間夜通しのウオーキング)があるので、アロママッサージの必然性は高く、また鹿児島の主要な病院も多く参加しておりアピール性も高いので、是非とも来年はもっと長い時間帯でのブース出店が必要ではと感じました。
今回、ボランティアとして県内のアロマセラピストの方々が20人も集まり有難うございました。以下にお名前を記して、御礼申し上げます(敬称略・順不同)。