今回は自分が大学院時代に医学博士号を取得した論文について記します。
慢性副鼻腔炎における嗅覚障害
―臨床的・組織形態学的検討―
- (1) 基礎的研究として
- 実験的副鼻腔炎家兎(ウサギ)における嗅上皮、呼吸上皮における炎症像、細胞分裂能の相違をHE染色、SEM観察(走査型電子顕微鏡)、抗BrdU抗体を用いた免疫組織学的観察により比較検討した。
- 結果として
- 実験的副鼻腔炎家兎においては嗅上皮に炎症の波及(好中球の上皮層内の浸潤、嗅小胞の減少・嗅毛の破壊像)が見られる。
- 炎症下での嗅上皮の細胞分裂能の増加が呼吸上皮より劣る(正常時、呼吸上皮のターンオーバーは
2Wであるのに対して、嗅上皮は4W)ことが観察された。
- 基準嗅力検査、静脈性嗅覚検査、嗅覚識別検査(SIT)、嗅覚閾値検査(PEA)において、過半数の症例でスケールアウトを示すなど、重度障害の傾向を認めた。
- 副鼻腔炎患者における嗅上皮生検より線維性・浮腫性変化、炎症細胞の浸潤など、嗅上皮への影響が観察された。
以上の結果より慢性副鼻腔炎における嗅上皮の障害が、嗅覚障害の治癒遅延に関連しているものと思われる。