Sweet Smell 2・3月号

2月に金沢で開催された「嗅覚冬のセミナー」に参加しました。

これは三輪高喜教授(金沢医科大学)、小林正佳准教授(三重大学)が中心となり全国の嗅覚を専門とする耳鼻咽喉科医の互いの情報を共有することによって、より知識を深め合い、明日からの臨床に役立てようという趣旨のもとに今回初めて開催される会合です。

各大学のエキスパートの先生方にご講話頂きました(写真)が、中でも綾部早穂先生(筑波大学人間心理学)の特別講演「においを知覚すること」では物理化学的特性に基づいて決定されるにおいの意味的知識の獲得に努めるべきということ、また飯島睦先生(東京女子医科大学神経内科)の「嗅覚障害と神経変性疾患」においてはパーキンソン病、レビー小体型認知症、REM睡眠行動異常の相違点などが勉強になりました。

また石丸正先生(ひょうたんまち耳鼻咽喉科)や森恵莉先生(慈恵医科大学)が留学されていたドレスデン大学附属病院で施行されているSniffin' Sticksという嗅覚検査が展示され興味を持ちました。これは写真の上から順に検知域値検査(Threshold)、識別検査(Discrimination)、同定検査(Identification)の3つより成ります。

検知域値検査はブタノールの16段階の濃度希釈系列よりなるニオイ刺激用ペン1本と対照用の無臭ペン2本が1セットで、においを感じる1本を嗅ぎ分けるという検査です。
匂いを感じ得た時点で即検査終了、域値決定となるのではなく、検査結果が固定するまで同作業を数回繰り返すため、かなりの時間を要するとのことです。
しかしデータの信頼性はより高くなり、また基準嗅力検査のように多種類で各々濃度が異なる訳ではなく1種類なので、得られた検査結果は"域値"ではなく"閾値"と呼べるのではと思います。

識別検査は同種2本と異種1本が1セットの、計16セット(種類)より構成されています。すなわち3本のうち異なるにおいである1本を嗅ぎ分け当てるというものです。1種類試させてもらいましたが、シナモンのような薬品のような・・・で、結構難しい印象を受けました。

2種をA、1種をBとすると嗅ぐ順番としてはA→A→B、A→B→A、B→A→Aの3通りですが、嗅ぐ順番・方法は各種類、上記のいずれかで定められているか、もしくは自由(4回以上、すなわち繰り返しもOK)かだとしても、方法によって結果に差が出るものなのか気になるところです。個人的には3本各々1回しか嗅ぐことができないのであればA→B→Aが最もにおいを識別するのが難しいのではと感じました。

同定検査は香りを嗅いで、提示された4種類の中から正解を1種類選ぶもので、スティック型嗅覚検査(OSIT-J)、オープンエッセンスのペン型スタイルという印象を受けました。

2日間のセミナーを通して最も良かった点は人数も多すぎない(30名)ので、質疑応答の際に、一つの事案に時間をかけてゆっくりと討議することができたことです。自分も嗅覚に関する論文の記載において、「におい」と「ニオイ」すなわち、ひらがな表記にすべきか、カタカナ表記にすべきか、それとも両者を併用するべきなのかを提言しました。

私は一般的、抽象的な意味合いとして幅広く示す場合は「におい」、その論文の中での具体的な固有名詞を指し示す場合は「ニオイ」として用いるものと思っていました。また「〜において」という語句と「におい」が並ぶと読みづらく紛らわしいのでカタカナ表記を用いるのだとかつて書籍で読んだこともありました。

しかし今回、参加者の方々よりやはり正しい日本語表記としては全て「におい」というひらがな表記に統一すべきだと意見が出て、今後は論文記載などを通じて啓蒙していくということで意見がまとまりました。このように今までならば時間がかかった事例でも、その場で意見交換した上で即断即決できたことは非常に貴重な場であったと実感しました。

懇親会では山中教授が受賞されたノーベル賞授賞式パーティーで初めて日本酒が振る舞われた際、提供された「加賀ノ月 満月」を飲みました。私は日本酒は普段あまり飲まないのですが、甘くなく豊潤でかつキリリと引き締まった香りと感じました。

今回は当日福岡からの始発便で金沢に向かい、早めの昼食として「料亭山ぎし」の鴨料理をコースで頂きました。加賀大聖寺に藩政時代より伝わる坂網猟という方法で野生の鴨を捕獲し、狩猟解禁期間である冬の3ケ月間のみ食べることができます。

この狩猟方法だと銃を使わないために肉に余分な血が回らないこと、餌を食べに行く直前に捕獲するのでお腹が空っぽなため内臓からの腐敗がないこと、また落穂などの穀類が主食なので肉における脂(あぶら)のバランスがいいことなどが、肉に臭みを生じない理由です。

また鴨じぶ煮の名前の由来は"じぶじぶ"と煮るためという説と、豊臣秀吉の兵糧奉行であった岡部治部右衛門(この料理を考案)の名前よりという説とがあるそうです。

鴨ロースに続いて最後に待望の鴨じぶすき(写真)を頂きました。ネギと共に食べるのはまさしく"鴨がネギを背負ってくる"その通りなのですが、意外なことが3つもありました。

1つ目は鍋なのに鴨肉に片栗粉をまぶすこと、2つ目は鍋から取っただし汁の中に山葵を溶いて食べること、そして3つめはそのだし汁(ベースは鴨の骨と昆布)が九州レベルくらい甘かったことです。関東くらいに醤油辛いものかと思っていました。

肝心の鴨肉はと言うと今まで食べたきたものとは格段に異なり、均一な歯ごたえでマグロの刺身ほど柔らかいものでした。普通にソテーして塩胡椒だけでもかなり美味しいのではとも思いましたが意外とメニューには見当たりませんでした。

あと機会があれば生(刺身)を一度は食してみたく、それこそ山葵醤油とか合うのではないでしょうか。このように知識・実践共にお腹一杯な「嗅覚冬のセミナー」でした。また次回は夏頃の開催を望みたいです。