5月10日〜11日に開催されたがん患者・家族支援24時間イベントであるリレー・フォー・ライフ・ジャパンかごしま2014に昨年に続いて、日本アロマセラピー学会としてブース出展しました。この催しは1985年に米国の外科医ががん患者を励まし、対がん運動組織に寄付する目的で「がんは24時間眠らない」「がん患者は24時間がんと闘っている」をメッセージとしてフィールドを走ったことから始まったそうです。
事前活動は昨年同様、川畑真希子看護師(堂園メディカルハウス内のメディカルアロマセラピーサロン:レイライン代表)にサポート準備、人員配置など奔走頂きました。当初はボランティアスタッフが施術で疲労困憊にならないかと懸念していましたが、イベント当日は20名近くのボランティアにお集まり頂いたため、逆に自分の出番が回らず、手持ちぶたさではないかと心配するくらいでした。
その一方で今年も私はオブザーバーに終始するのみでした。立場上もう少し積極的に参加すべきなのですが何せトリートメント手技を会得していないので今後も難しいと思います(笑)。その代わりに(?)今回も反省会と称しての懇親会を設けました。
来年の課題としては大会パンフレットにおける当ブースの掲載をもっと大きくして、PRコメントもより盛り沢山にしてみてはと思いました。
アロマ・匂い関連書籍での書評を読んだり、当院セミナー常連の森山一郎先生、伊東一則先生に勧められたことより、今話題の「アノスミア」という小説を読んでみました。
シェフ見習いの女性が交通事故よりアノスミア(嗅覚脱失)をきたし、においが判らないことによる絶望的な窮地を多々経験するも、最後は劇的に嗅覚が回復するというストーリーです。しかしその内容はというと、においが判らないことにより悶々とする日々を送るといった単一的で間延びした展開です。また真面な治療はしていないにも関わらず嗅覚が改善したという事実は嗅覚専門の耳鼻咽喉科医の見地としては、日常診療では考えにくいことです。何よりも高度の嗅覚障害でも一般的治療(ステロイド点鼻、内服など)を受けなくとも、そのうち自然寛解するという安易な考えが読者(特に嗅覚が重要な職業従事者)に浸透してしまうのではと危惧しました。以上の理由より最初に読み終わった時点での率直な感想はやや期待外れな印象で真面目な日本人向けではないなとまで感じました。
しかしこのコラム記載のために改めてつまみぐい的に再読してみると新たな発見が多々ありました。
1つ目はユニークな小見出しです。「鴨の脂とアップルパイ」「オポポナックスとヒマラヤ杉」など、どれも各章に表現描写はあるのですが、これらの2つの香りがペアになっているのは、匂いとして相反する2つという意味なのか、著者がその章で最も読者にアピールしたい2つの香りという意味なのか考えさせられます。
2つ目は以前このSweet Smell 12' 4-5月号で書評した「匂いの帝王」(早川書房)はにおい・香りの語句の比喩的表現が多彩であったのに対し、この本はにおい・香りに関する熟考された捉え方の表現・引用が多いことです。
具体的には「においとは比喩で表現される感覚であり、つねに、もっと具体的でわかりやすいほかの感覚との比較で語るしかない。」(P63)、「臭紋(遺伝的性質を持つ各人固有のにおい)」(P128)、「においの感覚というのは、多分に学習された能力なんですよ、」(P283)、「彼はあっさり答えた。情熱と訓練。それだけ。」(P309)などが挙げられます。特に後2者においては嗅覚という感覚はもって生まれた才能というものなどは無く、異常をきたした際における一つの治療手段としての"嗅覚トレーニング"を改めて再認識した次第です。
他にはリチャード・ドーティ、コスタンゾ、ドレスデン医科大学嗅覚味覚クリニック、ルカ・トゥリン、上田麻希、「失われた時を求めて」など馴染みのあるネーミングを文中に見つけると嬉しく親近感が湧き、またアニスヒソップ、マジパン、パラミツ、ピタンガ、ジンジャーブレッド、グレープナッツブランドといった代物のにおいを是非嗅いでみたいと思うようになりました。
最後になりますが、嗅覚障害の恐ろしさをリアルに説いていることや、最後まで改善したいという強い希望と情熱を持つことが嗅覚障害を治癒に導く最高の方法であるという啓蒙などは一般世間に対して多大なるアピールと言えると思います。
小説というのはいつも、早く結末を知りたいのでいわゆる"速読 "してしまいがちです。近いうちに今度は嗅覚の成書として、線をぐちゃぐちゃに引いて、本を汚しつつ、細かに調べながら、かなりの時間をかけて改めて"精読"してみたいと思っています。
日本耳鼻咽喉科学会の懇親会終了後に恒例の嗅覚飲み会が今回は産業医大の柴田先生が幹事となって、櫛田神社の前の居酒屋「博多べい」にて開催されました。
小林正佳先生(三重大耳鼻咽喉科准教授)は飲み会では和気藹々、柔和な雰囲気ですが学会発表の場ではその飲み仲間に対しても厳しい質問をされます。勿論ご本人も自分には厳格であり、その姿勢には共感するものがあります。
嗅覚は耳鼻咽喉科においてはマイノリティーな分野ですが、先生のこのようなストイックさが真の絆の強さを生み出すものだと感じています。