五感(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚)の中でもあまり重視されていない嗅覚(きゅうかく)ですが、“におい”はおいしさを感じたり、危険を察知する役目を持つなど、人間の基本的な機能に欠かせない重要な感覚の1つです。

検査の必要性

* 嗅覚減退(においが良く分からないこと)のある方
ガス・ガソリンもれ、火事の煙、食物の焦がしたにおいなど、気付くのに遅れると生活上危険なので検査・診断が必要です。
* におい・香りが重要な職業の方
調理師、ソムリエの方や焼酎醸造、アロマテラピーなどに従事されている方は、嗅覚が自分では正常だと思っていても、自分の正確な嗅力を知ることは仕事のqualityを高める意味でも大切です。
* 高齢の方
視力、聴力と同様、加齢により嗅力も落ちる事が最近明らかになったので、注意が必要です。

嗅覚障害の検査・診断法

* 基準嗅力検査
5種類・8段階の薬液を濾紙に浸して、においをかぐことによりその種類を答える検査です。
平均認知域値すなわち嗅力は、−2から5.8であり、1以下が正常で以後、軽度・中等度・高度障害と段階的に判別され、5.6以上が嗅覚脱失となります。

* カード式嗅覚検査
日本人の生活習慣に適合した香りを中心に選択された簡易な嗅覚同定検査です。
4つの選択肢から、何のにおいを感じたかを1つ選んで回答する検査で、12種類中、9種類以上正解が正常です。
選択肢として、家庭用ガス、バラ、墨汁などがあります。

* スティック型嗅覚検査
2つに折り曲げた薬包紙に、においスティックを塗布し、擦りあわせた後、匂いを嗅いで回答する検査法で、においの種類、判定法などはカード型嗅覚検査と同じです。
選択肢として、カレー、バラ、蒸れた靴下などがあります。

* 静脈性嗅覚検査
アリナミン(VitB1)を静注して潜伏時間・持続時間を測定します。

* 鼻腔内視鏡(ファイバー検査)
鼻アレルギー・慢性副鼻腔炎・鼻茸(ポリープ)などの疾患の有無、嗅裂部の開存度をチェックし、鼻腔所見はTVモニターにて供覧できます。

* 日常のにおいアンケート
日本人の生活様式をふまえたアンケート検査で、正解率70%以上が正常です。

嗅覚障害の治療

* 鼻疾患・感冒の治療
通常は内服のみですが、鼻茸(ポリープ)があり、難治性の場合は手術となることもあります。
* リンデロン(ステロイド)点鼻療法
懸垂頭位(仰向けに寝て、肩枕を入れ、かなり反り返る姿勢)にて点鼻液を両鼻腔に3滴ずつ点鼻し、そのままの体勢にて10分間保持する治療を、毎日朝夕2回行います。

Sweet Smell 08-09月号

クレープシュゼット(Crepe Suzette)

写真は後述する吉田安政氏の愛弟子の木佐貫シェフ(鹿児島市 巴里市場)によるクレープシュゼットの調理実演です。これはクレープにバター、砂糖、オレンジの皮と果汁を塗って四つ折りにして、グランマルニエやキュラソーなどのオレンジリキュールでフランベする私の最も好きなスイーツです。火をつけることでアルコールが蒸発してメイラード反応をきたし濃厚なカラメルソースとなります。コニャックやナポレオン、VSOPなどのブランデーを仕上げに用います。シュゼットという名称は女王の名前など諸説あります。

昭和の頃から食べ続けてきましたが、本格的に出す店はわずかとなったようです。今回閉店の知らせを聞いて数年ぶりにメゾンドヨシダ(写真 福岡市)に伺いました。勿論ムッシュ直々のシュゼットを頂きました。中州「花の木」の頃が時代も私の人生も“バブル絶頂”で、当時を思い出し万感の思いでした。店内の照明が暗くなり自分の卓上で青い炎がメラメラとふくよかな香りとともに輝きを放ち、火が消えるまでの心待ちな瞬間を醸し出す、これ以上のスイーツは他に類を見ないと思います。

嗅覚過敏とアスペルガー症候群

最近は発達障害という疾患がトピックです。この数年で広範性発達障害(PDD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、従来の自閉症を包括化して自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)という診断名に統一され、その中にアスペルガー症候群という疾患があります。この疾患の特徴の一つに嗅覚過敏をはじめとする感覚過敏があり、近年正式な診断基準に含まれたそうです。

においが判らない嗅覚減退・脱失に対して嗅覚過敏という概念は耳鼻咽喉科でも時々経験しますが、多くの患者は成人で、訴えが特徴的で心因的な問題に起因する事例がほとんどです。それに対して小児・青少年で「いろいろな物のにおいを嗅ぐ癖がある」「特定の対象物を過度に嗅ぐ」「においが気になるため繰り返し手を洗う」「においに敏感過ぎるため偏食が激しい」「洋服のにおいのみで誰の衣類かを当てることができる」という方々がおり、アスペルガー症候群の可能性が示唆されます。そういう患者さんを嗅覚検査してみましたが、嗅覚の能力が抜群に優れているという訳ではなく、におい対する強い興味・態度を周囲に示すため嗅覚に卓越していると周囲に見做されることが多いようです。

大脳辺縁系での感覚情報の処理能力に問題があることが指摘されており、落ち着かない、少しのにおいでも嘔吐してしまうなどの悪循環に陥り、コミュニケーション能力や社会への不適応が問題視されています。打開策として嫌いなにおいを用いない・設けないなどのにおい環境の配慮が必須なので社会的な理解と周囲の方々の協力は不可欠だと思います。

<参考文献>
ブレンダ・スミス・マイルズ他/アスペルガー症候群と感覚敏感性への対処法/東京書籍
榊原洋一/アスペルガー症候群と学習障害/講談社
神崎晶/JOHNS嗅覚とその障害/東京医学社


この欄では毎月におい・香りについての話題・所感について掲載する予定です。におい・香りに関する質問をお寄せ下さい。


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